八月二日(木)の日記2

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先日、生まれて初めて自分でチケットを取ってライブを観に行った。ひとりで行った。この歳になってはじめて、毎日朝から晩まで聴いてしまうほど好きなバンドができたからだった。
控えめに言って最高の体験だった。人間の女って、憧れの人を目の前にすると本当に胸の前のところで手を組むんだね。びっくりした。


‪すべての曲が終わったあと、アンコールに応えて再登場したギターボーカルがボソボソとした声で‬
‪「災害でたくさんの人がつらい目にあって、悲しいニュースも多くて...わたしは音楽でみんなにすこしでも楽しくなってほしいと...思ってます」‬
と言ってアンコール曲を演奏した。

二十年以上も音楽をやっているとは思えないほどつっかえつっかえのMCで彼女は、高校の文化祭のバンドステージで学年で二番目にモテる男の子が言うみたいなセリフでそう言った。
だけど心からそう思っているのがわかったし、死ぬほどシビれた。
そのとき自分が胸に抱えていた不安まで減った気がした。


数年前まで彼女は、武道館でライブをやるような人気バンドのギターボーカルをやっていたんだけど、自ら脱退してバンドは解散、それではじめたのがこのバンド、という経緯がある。高校生当時の私も当時の交際相手に教わって知ったそのバンドが好きで、今でも何曲もそらで歌えるくらいだ。
当時の伝説的な人気からするとそこはたぶん信じられないくらい小さなライブハウスだった。

だけど私は、今の彼女のつくる曲や書く歌詞やギターの音のほうがずっとずっと好きだと思った。私は音楽については完全にシロウトだけど何がやりたいのかっていうのが痛いほど伝わってくる。

前のバンドをもうしばらく続けていたら、何十倍、何百倍ものたくさんの人を感動させることができたんだろうと思う。解散を惜しむ声が今もネット上に散見される。
だけど私や、たぶんそのとき並んで立ってライブを観ていた人たちにとっては彼女は、彼女こそがスーパースターで、それで良かった。


曲をやっているときの彼女はMCの棒読み口調が嘘みたいに、クールで自由自在だ。
誰をどれだけ落胆させたとしても、これしかないと確信した人間はそのことを全力でやるのが本当に良いんだと、強く思った。